『お腹召しませ』 浅田次郎(著) ―中公文庫―
幕末の普通の侍の生活を描いた短編集。江戸末期の侍社会と言うのは、現在のサラリーマン社会と通ずるところも多いので、なかなか楽しめる。
しかし大きな違いは「腹を切る」と言う責任の取り方があることだ。
しかもその効果は大きく、サラリーマンが会社で「私が辞めます」という事で取り繕えるより、はるかに広い範囲をカバーして「後は何とかなる」と言う状況を作れるようだ。
これを描いたのが表題作の「お腹召しませ」。
自分に落ち度があったわけでもないが、とある事件で「家」は一大事。
自分が監督責任ということで腹を切れば、孫に後を継がせ、家だけは残せるよう取り計らってくれると言う上司。
確かにどう考えてもそれしかない。
しかし会う人会う人の、災難に同情しつつも「切腹」するものと決め付けた物言いが癇に障ってしまう主人公。
家に帰ると妻娘の手で、立派な切腹の用意までもが出来上がっている...。
この、納得はしているが腹立たしい状況というのが面白い。
今回覚えた言葉に「商い腹」と言うのがある。
家の利益のための切腹を言うらしいが、
遺言に家の事を色々書くと、商い腹と誤解され(本当はそうなのだが)見苦しい...とか。
他に、江戸後期は切腹と言っても実際は扇子をちょんと当て、あとは介錯の人が...と言うのがほとんどのようだが、これを「打ち首同然の扇子腹」と言っているのも面白かった。
他の短編もなかなか良かった。
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